笑い声が寒空に響く

「半分当った。じつは、このおれもだ。いや、案外君もその一味かも知れんぞ! あ、は、は、……」土門の笑い声が寒空に響くのを、豹一はしょんぼりした気持できいた。 ある三流小屋の前まで来ると、豹一ははっと顔をそむけた。村口多鶴子の主演している古い写真がセカンドで掛っているのだった。絵看板のなかで、あくどい色に彩られた多鶴子の顔がイッと笑っていた。こそこそと通り過ぎようとすると、土門が、「おい、君の恋人の写真やってるぞ! 見ようじゃないか」と、引き止めた。 豹一は怖い顔をして、切符売場へ寄って行った。「切符はいらんよ」土門が言った声も、殆んどきこえなかった。 黒い幕をあげて、なかへはいると、いきなり多鶴子の声だった。顔だった。肢態だった。幅のひろい、しかし痩せた肩をいからせ気味に、首をうしろへそらして、うっとりとした眼で、男に取りすがり、「…………」 なにを言ってるのか、豹一にはききとれなかった。涙がいっぱいの気持だった。なまなましい多鶴子の肢態の記憶が豹一の胸をしめつけていた。痛いような嫉妬が、多鶴子の白い胸のホクロひとつにまで哀惜を覚える心とごっちゃになって、豹一は身動きもせず、じっとスクリーンを見つめていた。 だんだんたまらなくなってきた。 写真のなかの多鶴子はピストルを握って、男に迫った。「こりゃ。良きじゃね」 土門が豹一に囁くために、ふと横を向くと、いつのまにか豹一の姿が見えなくなっていた。

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