生を呪わぬ心

 大正四年(一九一五)

   生を呪わぬ心

 あなたへお手紙をあげようと毎日思って、まだ得書かないうちに私はまた不幸に訪れられました。私は明後日また第三度目の手術を受けなければならないことになりました。肉体的苦痛に対する不安と恐怖との人並以上に強い私は、今それに抵抗するために、精神を緊張させねばなりません。なにとぞこの手紙の、あなたの心にみつるほどに、長くこまやかでないのをゆるして下さい。この前の手術後、七十二日間日々耐え忍んだ苦痛はまたむなしくなりました。私はまた新しき忍耐を要求せられました。私の苦痛は私がしのび受けることによって、完結するとしても、私の父母に与えるなげきをいかがしましょう。私は実に両親の不断のトラブルです。ああ私は夜暗い、冷たい教会の板の間に伏してどんなに両親のために祈ったでしょう。 謙さん、あなたの先日のお手紙は私をたいへん強めまた温めてくれました。私は運命を忍受して何もかも耐えしのびます。私には愛と運命とに対する微妙な心持ちが生じてきました。そして私はますます人生に対して積極的になります。 私は人生を呪うことができません。これ私の最深の恵みです。どうぞ私のために祈って下さい。 私はあなたのアリストクラチックな高雅順良なひととなりを、心から懐かしく思っています。どうぞふしあわせな私を忘れずに祈って下さい。私はあなたや正夫君らと一緒に仕事をする時が来るような気がしてなりません。私は父が私に与えてくれる財産を全部投じて、私らの生の歩みのために、そしてそれによって他人を潤おすために雑誌でも出そうかと思っております。そんなふうな仕事ででもなくては私のような病身なものの他人のために貢献する道はありません。

— posted by id at 01:31 pm  

T: Y: ALL: Online:
Created in 0.2106 sec.

http://bp84.com/