三度の手術もむなしく

  三度の手術もむなしく、病院を去った長き忍耐の日

 私は筆を持つとじきにあなたに訴えたき気持ちになるのです。私は今外科部長と話して別れたばかりです。そしてその話はどんなに心細いものでしたろう。実は私の傷は一週間前までは非常に良経過にて、この様子ならば近日中退院して温泉へ行けと部長も言っていたのです。それで私も東京の妹や故郷の両親にもその旨を通知しました。ところが一昨日頃から傷の模様は急変しました。そしてまたもやフィステルになりました。「部長さん、切るべきものなら切って下さい」 私は四度目の手術とその後の永き忍耐をいとわぬ覚悟で問いました。「そうだね、切るのはいいが、切ってもまたフィステルになるかもしれない、よくそうなりがちなものだからな、それよりこのまま退院して温泉へでも行きからだの保養したほうがいいかもしれない、ルンゲのほうが大切だからね」「すると痔はどうなりますか」「痔はだんだん悪くなるね、どうしても。悪くなってからまた入院するのさ」 部長は憐れなるものを見る眼つきで私の衰えたからだを眺めました。(じっさい私は三度の手術と運動不足と毎日の苦痛のために著しく衰弱しました)そして気の毒そうな様子をして出て行きました。ほとんど半年の永い永い忍耐はむなしくなってしまいました。そして何の収穫もなくして病院を去るのでしょうか、しかもまた手術しに帰らねばならぬと知って肺を養うために温泉に行くのでしょうか? 今朝私は父と艶子から喜びにみちた手紙を受け取りました。そしてこの悲しき事実を返書にしたためねばなりません。あわれなる父(あなたは二年前この父を東京の下宿の門口で見ました)はどんなに悲しむでしょう。私はひとり蒲団にすがって悲しみに溺れていました。するとお松という十六になる田舎娘《いなかむすめ》が私の室にはいって来ました。私は一と眼見てすぐに彼女の心を知りました。また叱られはずかしめられて私に訴えに来たのです。「おいどうした、どうした」

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