看護婦にたのんで

 と、私は近づきながらたずねました。すると塀《へい》に顔をつけて身ぶるいして泣くのです。その時私の付添婆が帰って来てその事情を話しました。お松は湯たんぽを落として足の指をひどく負傷しました。そして看護婦にたのんで繃帯してもらったのを主人のお嬢さんが無慈悲に叱りののしり、そして金を惜しんで診察も受けずに癒《なお》るものかなどと言って辱かしめたのです。貧しき彼女は診察の金もないのです。「わたしは、わたしは……いくらお嬢さんでも……」 などとすすり泣くばかりでものもいえないほどでした。私はふるえる赤い髪と足の繃帯と、小さなあげ[#「あげ」に傍点]のある肩を見た時思わず彼女を抱きました。「あした、医者に見ておもらい、金は私が持ってる、いけないね、実にいけないね」 私は腹が立ちました。そして付添婆がお松をなだめて連れて出た時私はお嬢さん(聖書の講義をしている娘)を叱りに行こうとして、かえって悪いと思って室《へや》にとどまりました。そして私の興奮を抑えることができなくて窓にすがりました時私は泣きました。でも考えてみて下さい、何もかも悲しいではありませんか。窓の外は嵐でした。そして青い遠い空には星がふるえていました。私はこの頃しみじみと星が親しくなつかしくなりました。今夜も天の甘美と遠い調和と魂の休息とが思われて、そこはかとなき永遠へのゼーンズフトを感ぜずにはいられませんでした。そして「ああ病気は癒らなくてもいい」と思いました。そして手を合わせて祈りました。 なにとぞいつまでも私を愛して下さいまし。私はあなたの過去についてほんの少ししか知りませんけれど、あなたは孤独な淋しい少年時代を送った人のような気がしてなりません。そして今あなたの住んでる家庭はあまり温かな住み心地よきものではないのですねえ。なにとぞ悲哀に耐えて他人を愛して生きて下さい。あなたの芸術的天稟と盛んな、謙遜《けんそん》な、研究心と深い微細な感情とはあなたを大きな器にするに相違ありません。私はあなたは大学を出る頃にはすでにひとかどの学者になるだろうと思われて非常にプロミッシングな期待を置いています。私はあなたの未来に祝福を送ります。

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