ペラダンの「アッシジのフランシス」

 ペラダンの「アッシジのフランシス」はまだ読みません。この人についてはこれまで私は何事も知りませんでした。フランシスのものは少しは読みました。私はこの聖者を取扱った戯曲を数日の内に読み始めましょう。ことにフランシスとクララとのことに注意をおいて読みましょうとおもいます。私の心の混乱するのはまったく神と性との問題についての悩みのためなのです。この頃私の魂はこの煩悶のために平静を乱しておちつくことができません。私のこのもだえは二週間ほど前にお絹さんが私をたずねて来てからますます強くなりました。お絹さんは突然私をたずねて来ました。そして五日ほど私たちと一緒に暮らしました。彼女はますますはげしく私を恋い慕うようになりました。五日の間一緒にいても彼女ははればれとたのしく私たちと暮らしたというよりも、何となく悩ましげに苦しげに見えました。そして私と二人きりになるときには重苦しい、悩みの言葉を出しては不安のように見受けられました。彼女は苦しい都合を冒して広島を出ているので、ゆっくりしているわけにもゆかず、帰りたくないといって泣きながら舟に乗って別府を去りました。その日は波は静かでしたけれど空は曇って不安な天候でした。ハシケで汽船まで妹と一緒に見送りましたが、別れる時に妹の手を握って泣いていました。(彼女は感じやすく、じきに親しくなる性質にて、妹をすぐに好きになり、いくらか崇拝するほどになりました)私たちは埠頭に立って船の出るまで見送りました。私は船で人を送ったのは初めてでしたからか、たいへんかなしく感じました。そして彼女はしきりに船よいを気にしていたので、あの「青と白」の最初のシーンが思われてなりませんでした。汽船の見えなくなってからも、彼女の髪の銀のかんざしの遠くに小さく光ってキラキラしていたのが眼に残って消えませんでした。 彼女のねがいは私の妻になりたいと一すじに思ってるのです。そして私がその約束をしないので悲しがるのです。彼女は信じて恋しく思う男子に身も心もささげて妻になりたいというきわめて単純なねがいなのです。けれど私はさまざまのことを考えねばならない地位にいます。ことに私は結婚というものを十分に肯定するあきらかな根拠をさえ持ってるわけではないのですから。

— posted by id at 01:41 pm  

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